元気で何より?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



このところの冬は、毎年のように結構な厳寒続きじゃあるけれど。
今年の冬は特に、
全国的という広域での寒波襲来というケースが多かった。
日本海側だけに収まらず、
太平洋側の平野部でも積もるほどの雪が降り。
降雪のみならず、
それが数日ほど消えなんだという重篤状態に見舞われて。
都心部での久し振りな積雪と凍結という展開に、
慣れない人がすべって転ぶのは ままある話。
幹線道路で立ち往生した車が置き去られるという、
気持ちは判るが…という困った事態も続発したほど。
そんなこんなな極寒が師走から始まって、
年が明けての成人の日でも暴れて下さり。
節分を前にすりゃあ、そろそろ収まるかと思いきや、
札幌の雪まつりには雪が要るでしょう?と気を遣ったか、
最後の最後にも台風並という規模の低気圧が
寒波を引き連れ、どっかんと急襲して下さってるあたり。


  よほどのこと、
  “しっかりしなさい!”と
  日本人へ喝を入れたい神様なのかも知れませんて。




     ◇◇◇



そうまで寒い寒い、一月睦月の終しまいの週末。
今シーズンだけで もう何度聞いたフレーズか、
この冬一番だという低気圧が日本海側で爆発しており。
気温も低いが風も強くて、
顔やら足元やら、少しでも露出しているところの全てへ、
細かい針を吹き付けられているような寒さが襲う。

 「都内でこれだもの、
  北の雪処じゃあもっと大変なんでしょうね。」
 「……。(頷、頷)」

そんな中だというに、寒い寒いと身をちぢこめて、
通院とかお買い物とか
必要があっての外出なさるお年寄りを狙っての引ったくりだなんて、

 「伊賀の忍者が許しても、
  このわたくしたちは許しませんことよ。」(おいおい)

アスファルトへお膝を突いてらっしゃる姿も痛々しいと、
滾る憤怒をそのこぶしの中へと握り込み。
お連れがいらしたので、
転び掛かったおばさまはそちらにお任せして、
きっと取り返して参りますからと、
ひとまずは“ごきげんよう”との会釈を残し。
そのまま…短距離走よろしく、
切れのいい所作にて駆け出したお嬢様たちの勇ましさよ。
濃紺のコートの裾からちらりと覗くは、濃色のひだスカート。
白いソックスにいや映える、黒革のシューズも品のいい、
ここいらでは知らぬ者のない、丘の上の名門女学園の制服や装いであり。

 「あっ、あのっ。」

まあまあどうしましょう、
正義感が強くていらっしゃるのでしょうけれど、
他でもない、あんな危ない人達を追っていかれるなんてと。
そちらもコート姿のご婦人二人が、
届かぬ想いを形にしたよな、制止の手を延べて見せたのへ、

 「ご心配は要りませんことよ、奥様がた。」

お友達から少し遅れたのは、
携帯電話でどこかへ連絡をしていたからということか。
やはり同じ制服とコート姿のお嬢様が、
そのモバイルをポケットへしまいながら歩を進めて来。
被害に遭われたお母様の手元足元をざっと見回し、

 「お怪我はありませんか? 痛むところは?
  すぐに迎えの車が参りますので、
  それでこの風をしのぎましょうね。」

それは柔らかく微笑って、お二人を宥めて差し上げて。

 「あの…。」
 「はい? あ、ああ、あの人たちなら大丈夫。
  学年で1、2を争う韋駄天二人ですし、
  ここいらの地の利だってありますから、
  原付きスクーターが、しかもあっちへ逃げたなら、
  先回りも軽いもんです。」

ほっほっほっほ…っと、
そりゃあ軽やかに微笑ったお嬢様。
口元に手を添えての、それは様になる優雅さで。
決して蓮っ葉な態度じゃあなかったのに。
どうしてでしょうか、
十代とは思えぬ威容があったように見えた、
奥様がただったそうでございます。


  ―― そうして そして


がつ・ごん、ばきどか、
きゅるきゅるきゅる、ぎゅるんっがつっ、と。
閑静な土地柄には相応しくない、耳障りな大音響が鳴り響き、
バイクからほうり出された格好の若いのが二人ほど、
ずざざざざぁーっと
アスファルトの路面を体の側面でスライディングしてゆく。
一応はヘルメットをかぶっていた相手だし、
カーブに入ってスピードを落としたところを
わざわざ狙ってあげただけでも良心的だと思ってもらわねばと、
やはりやはり大上段からの対処を取ったは、

 「逃げられると思っておいでか?」

途中のどこかでカバンは置いて来たらしい、
シックなAラインのコートもお似合い、
つややかな金髪を、
今日は前髪だけカチューシャで留めての
あとは降ろしておいでだった白百合のお姉様。

 「何しやがる…っ!」

何をどうされて素っ転んだのかも判らぬまま、
それでも逃げ足だけは速かった反射神経は ピカ一か、
ガバッと身を起こしての立ち上がった、二人乗りのチンピラたち。
追っ手と言っても小柄な人影が二人、
しかもようよう見やれば女じゃねぇかと軽んじかかった賊らの口元が、
そのまま歪んで引きつったのは、

 「覚悟なさい。」

カバンの代わりとして、
一体どこで手に入れたそれなのか。
店頭で等身大のアイドルがプリントされたのぼりを張って
目立つように はためかせていた竿。
物干し竿のようという比喩はさすがに大仰かもしれないが、
ただのポールよりは重量もあろうし、
何と言っても身の丈ほどもの長さのあるそれを。
その身の前や向背へと回しつつ、
風を切ってのぶんぶんと大きく回して見せる様相は。
バトントワリングや
フラッグ・チアリーディングの旗手の
大胆で鮮やかな手捌きを思わせて。
素人相手に威嚇には十分すぎる代物かも。
そこへ、

 「どうした、…っ!」
 「何だぁ? そのお嬢ちゃんたちはよ。」

どうやら、似たようなチンピラ同士で意を合わせ、
徒党を組んでの悪さをしていた連中らしく。
ここは彼らの待ち合わせの場所でもあったのか、
契約者がいないらしい、雑草だらけの場末の駐車場には、
似たような風体の若いのが 数人ほど待ち受けていたようで。
先程の異常な停車の物音に、
今頃の反応というテンポのズレようだったのも、妙な余裕があってのことか。
“何だ何だ”と飛び出して来た顔触れの中には、
追っ手か返り討ちにしたる…という構えになったのもいたようだったが。

  ―― それっくらいで威勢が萎えるようなら、
     最初っから追っかけたりなぞ致しません。

萎縮するどころか、ふふんと端正な口元に凶悪な笑みが浮かんだくらい。

 『……威張ることではないぞ。』

  え? え? 今 誰か、何か言いましたか?(苦笑)

頭数が3倍になったくらい、どうしたというのです。
手ごたえが増えたというもので、

 “弱い者いじめにならないようにという
  いつもの手加減も、今日は要りませんね。”

こらこらこらこら、お嬢様。(う〜ん)
そんな算段をしている白百合の彼女から、
数歩ほど遅れたような立ち位置、後方へ少し離れたところでは、

 「……。」

冬の陽射しに照らされた白いお顔は、
ビスクドールも顔負けなほど、
そりゃあ端正で、しかもしかも。
あまりの寒さに凍りついたか、何の感情も乗ってはないまま。
とはいえ、身動きには一片の支障もないようで。
ぶんっと振り抜いた腕の先、白い手の中へとすべり出して来た短い棒。
それをそれぞれの手で捕まえるように握り込み、
更にと 両腕を羽ばたきのように振り抜けば。
二本それぞれの棒はスライドし、
腕の尋より少し短いくらいの、
だが いかにも頼もしい特殊警棒へと変貌する。
それを握り込んだそのまま、
軽く前傾姿勢になってのぐんと一歩を踏み出し、
そのまま素早く…元は車止めだったか、路肩の縁石を踏み切ると、
高々と跳ね上がった少女の、恐ろしいほどの身軽さよ。
どう見たって学校帰りの女子高生。
今時には珍しいほど大人しいデザインのコートが、
実はこれほどまでも機能的かと驚かされるほど。
戦闘服や作業着ばりに着こなしてのこと、
それは自在に動いて見せた、
こちらも金髪のクール・ビューティであり。

 「な…っ。」
 「…っ!」

文字通りの あっと言う間もなく。
後から姿を見せた連中の中、
先頭にいた重たそうなジャンパー姿の男二人の間へ
割り込むように着地をすると。
それは正確に、それぞれの顎先へ警棒の先を据えている。
一時停止したのは、これから誰が何をするかを思い知らせるためだろか。
というのも、そのまま やはり一瞬のバネで飛び上がりざま、
得物の先が容赦なく、彼らのあごを上へと跳ね上げており。

 「ぐあっ!」
 「ぎゃあっ!」

野太い悲鳴に見送られるかのよに、
再び飛び上がっての後ずさった紅ばらさんだったのは、
そんな彼女が一瞬だけ立っていた場所へ、
微妙に遅れて飛び込んで来た、別な手合いがあったからで。
きっと“先手必勝”が座右の銘のノーコン野郎で、
反射に任せての めくら滅法という戦法。
紅ばらさんに当たる確率よりはるかに高く、
間違いなくお仲間にもぶち当たるのもお構いなしという、
勢いだけ、体ごとという不器用なこぶしを避けたのと。

 「…シチっ。」
 「任せて。」

それをこちらも読んでのこと、
逆に真っ向から打ち据えんと延ばされた、
七郎次の長柄の先の邪魔にならぬようにという、
こちらは言わば 連携での絶妙な退避であり。

 「哈っ!」

太刀さばきというより、槍を思わす真っ直ぐの突きが、
数人へとまとめて見事に決まったようで。
ずでんどうと倒れた輩が、瞬く間だというに既に数人。
しかも昏倒し切っていてそうそう簡単には戦線へ戻って来られまい。

 「な、何なんだよ、こいつら。」
 「あれって○○女学園の制服じゃんか。」

騒然とするお仲間たちの視線が飛んだが、
最初に突っ込んで来た現行犯の二人はといや、

 「いやいやいやいや、」
 「俺ら知らねぇし。」

下手を打った張本人のくせに、
かぶりを振ってのそのまま後ずさるばかり。
ところが、

 「あらあらあらあら、どこへ行こうというのでしょうか。」

たったか駆けて来たらしい、
これまたお揃いのコート姿の、○○女の女生徒。
ジンチョウゲの茂みの角を折れての真っ直ぐ…と、
それはすんなりと駆けつけているところといい、
ここいらへの土地勘もあるようだから、
いわゆる“なんちゃって”な偽者ではないようで。

 「お仲間 見捨てて逃げだそうだなんて。」

高くつきますわよとにっこり笑い、
かわいらしい手がむんずと、
彼らそれぞれの腕…の先、手首をわざわざ掴み取る。
そのままウィンクした途端、
火花が散ったほどの電撃…のようなものが放電されたようで。

 「うがぁっ!」
 「#※☆…っ!」

攻撃は一瞬のことながら、
上げた悲鳴があまりに派手で、
しかもそのまま ばたばた昏倒した様がそりゃあ悲惨だったからだろう。

 「ひいぃいっ!」
 「勘弁してくれよぉっ!」

生き残りの二人ほど、
かすれた声を上げ、後ずさっての爪先立ちになったほど、
逃げるのも忘れての恐れおののいて見せており。

 「…まあ、あれじゃあ
  もはや逃げはしないでしょうね。」

アタシらどんな魔女だと思われたかと、
止どめは差さずのお友達のほうへと駆け寄ったのが、
○○女の鬼百合…もとえ、白百合様こと、
草野さんチの七郎次さん。
ポールから剥ぎ取ったのぼりをかけて
埃をかぶらないようにとしておいたカバン。
追いかけがてらに見つけたか、
そのまま拾ってくれたらしい、
ひなげし様こと平八だったようではあるが。

 「で? ヘイさん、今のは何?」

それより気になることなのか、先にとそっちを訊いたところが、

 「静電気ですよ。但し、かなりの量を蓄電したから、」
 「だろうな。」

にっこり微笑った平八へ、
こちらも警棒を縮めつつ駆け寄って来た久蔵が応じる。

 髪が見事に立っておるぞ。
 え?やだやだ、まだ放電し切れてないんだ。

そんな会話になってる二人から、

 「ヤですよ、ヘイさん。
  アタシも静電気体質なんだから寄らないで。
  あのパチリは痛いでげす。」

じりりと後じさる白百合さんなのが、
先程、仲間を見捨てて逃げを打とうとした
こちらの二人連れを彷彿とさせたものだから、

 「何ですよ、その態度。」
 「シチ、痛いのは一瞬だけだ。」
 「ヤダったらヤダっ。
  きゃあ寄らないでったらっ、痛ったぁいっ!」



 「…というお茶目はさておき。」(まったくである)


さあさ、さっきのご婦人から引ったくったバッグをお返し。
投げるんじゃありませんよ行儀が悪い。
誰が解放してやると言いました、じきにお巡りさんがくるからお待ちなさい。
大体、この頭数でたった1件とは信じがたい。
この沿線では引ったくりが頻発しているそうだし、
重々叱られてこってりと絞られるがいい。
ああ、わたしたちのことは通りすがりということで。
暴力ふるったって触れ回ってやる?
あら、あなたがたの方こそ、
こぉんなか弱い女子高生に取っ捕まったなんて広まってもいいの?
未成年ですから実刑になってもせいぜい1年か2年で出てくるってのに、
その後のずっと、
お嬢様学校のお姉ちゃんにねじ伏せられた腑抜けと言われ続けたいだなんて、
まあまあ何てM体質な。

 「…その辺にしときなさい、お嬢さんがた。」
 「あら、佐伯さん。」

拘束に使えそうな、ロープや何やの持ち合わせがなかったからか、
彼らの身から剥いだらしい
シャツやマフラーで後ろ手にくくっての座らせた青年たちを見下ろして。
彼女らなりの見張りをしていた三人娘ら。
悪党退治をしたまでだ、何が悪いか…と、
ここまでは余裕綽々だったものの、

 「相変わらずだの、お主ら。」

特に気張ったジャケットじゃあなさそうながら、
それでもかっちりとした上背には精悍にいや映える、
背広姿のその男ぶりも素晴らしい偉丈夫が。
とはいえ…今は、
見慣れたセダンの開いたドアの上縁に肘を引っかける格好、
やや行儀悪くも凭れるようになっていらしたのは。
この情景を目の当たりにして、大いに脱力したからに違いなかろうて。

 「お、島田。」
 「あら、勘兵衛殿。」
 「きゃあ、何で勘兵衛様がっ。///////」

あれほどの大活躍した顔触れのうち、
一番居丈高だった鬼百合さんが、
一番真っ赤になってのうろたえたのもお約束?
今年も相変わらずな皆様であるようでございます。



    〜どさくさ・どっとはらい〜 13.01.26.


  *久し振りに大暴れです、お嬢様たち。
   井戸端会議ものも書いてて楽しくって好きですが、
   こういうドカバキものも、
   苦手なくせして時々ふっと書きたくなります。

  *そうそう、後回しになっちゃってる格好の、
   ヘイさんとゴロさんの将来図ですが。
   あそこの二人は…今と特別代わり映えしないような気がしましてね。
   目も当てられないほどのラブラブぶりで、
   籍に入ってるかどうかの差しかないんじゃあ…。

   「おや、失礼な。」
   「そうですよね。
    ゴロさんったら、
    わたしが未成年のうちは手を出さないつもりらしいんですのに。」
   「な、なんでそれを…。///////」
   「ふふ〜ん、そのっくらいはお見通し〜♪」

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